さすらいの太陽



1971年。原作・藤川桂介氏(宇宙戦艦ヤマト)、少女コミックでマンガ版(すずき真弓氏)も連載。

昭和28年8月2日。同じ病院で生まれた2人の女の子。1人は財閥の娘、1人は屋台のおでん屋の娘。看護婦の野原道子は恋人が出世のために金持ちの娘と結婚したため、財閥の娘を恨み、2人の赤ちゃんをすりかえる。

香田財閥の令嬢として育った「香田美紀」、貧しい家の娘「峰のぞみ」。本当は逆。

同じ学校にすすむと、美紀は貧しいのぞみをいじめの対象にする。のぞみは歌手になりたい夢を持っていた。美紀はそんなのぞみを見下したい思いから、自分も歌手への道を進む。

美紀は親の財力を背景に芸能界にデビュー。のぞみは酒場で「流し」をやりながら、歌手を目指し下積みを続ける。

看護婦・道子の弟、作詞家となっていた純の紹介でのぞみは芸能プロダクションに入るがドサ回りの毎日。その行き着いた先は美紀の付き人だった。

過激なスケジュールをこなしながら、仕事を続ける美紀。その姿をみていたのぞみは、「これでは本当の歌は歌えないのではないか」と芸能界に疑問を感じ、放浪の旅に出る。

旅先で出会った人との交流を続けるのぞみ。幻のジャズピアニストを歌声で舞台に復帰させるなど、彼女の歌は人々の心に響いていく。

かつて、のぞみが思いを寄せていたファニー。彼は米国に旅立ったが、日本に帰ってきていた。ファニーは「峰のぞみ」の実の兄であった。のぞみは「実の兄」と思い、衝撃を受ける。

のぞみは音楽祭に参加するというバンド、ゲリラーズと知り合う。このバンドと一緒に参加した音楽祭で、のぞみは自身が長年あたためていた歌、「心のうた」熱唱する。それが芸能界デビューのきっかけとなる。

財閥令嬢の不幸を願った道子はそのことを知り、弟の名前を使って記者会見を開く。「香田美紀」と「峰のぞみ」の出生の秘密を明らかにしたのだ。

病気を患っていた「峰のぞみ」の父、慎介。道子の記者会見後、危篤に陥る。

のぞみが駆けつけた時はすでに遅く、慎介は亡くなっていた。のぞみは看護婦達に「芸能人は親不孝」を非難を受ける。のぞみは芸能界を辞める決心をする。

美紀は自身の出生の秘密を知り、うちひしがれ、自殺をしようと、嵐の海に入っていく。

周囲の説得で歌手を続ける決心をするのぞみ。ファニーと兄妹ではないことが分かり、お互いの気持ちを確かめる。

美紀が発見され、病院に搬送される。美紀が目覚めた時、のぞみがいた。

貧困な峰家をさげすんでいた美紀は自分が香田家に捨てられると思っていた。しかし、香田大二郎は美紀をこれまで通り自分の娘として見守る決意をしていた。

美紀をみつめるのぞみ。のぞみは病院に駆けつける前、香田家の母、澄代に「私と美紀は姉妹だ」と話していた。

泣きながら手を取り合うのぞみと美紀。


香田家と美紀はこれまでの非礼を峰家とのぞみにわびた。

不幸な生い立ちだった道子。貧困家庭に落としたはずののぞみが素直に育った事実をみて、自分との違いを認める。

のぞみはデビュー間もないにもかかわらず、ワンマンショーが企画された。彼女は超満員のステージに立っていた。



峰のぞみの声優、藤山ジュンコは、このシリーズの音楽担当、いずみたく氏の弟子で、将来を有望視されていた。さらに、この挿入歌・エンディング曲の「心のうた」でメジャーデビューする予定だった。しかし、番組は低視聴率のため、売出し中の少女歌手・堀江美都子が「心のうた」をレコーディングして発売した。藤山ジュンコは「心のうた」でデビューできなかった。

もし、視聴率に恵まれていたら、藤山ジュンコはテレビまんがから抜け出てきた歌手として注目されただろう。「さすらいの太陽」の裏番組はクイズ・タイムショックタイガーマスク。強力だった。

藤山ジュンコは師匠のいずみたく氏の説得にもかかわらず、芸能界に疑問を感じ歌手をやめてしまう。発売したのは「心のうた」の藤山ジュンコ版と、挿入歌にもなった「鎖」の2曲だけ。

峰のぞみが「幻の歌手」から、メジャーデビューするストーリーだったのに、逆に、藤山ジュンコは「幻の歌手」になってしまう皮肉であった。